釣り師からアングラーへ
もともと防波堤でフカセ釣りをしていたのは、魚を釣る楽しみもあるが、人ごみから離れて堤防でひとり、揺れる水面を眺めつつ酒を呑み、時間よ早目に過ぎてくれ、という思いからだった。
一日が24時間だとしたら18時間は絶望的な気分だから、もうとにかく、早く過ぎてくれ時間、という思いである。
もう飛び込んじゃおっかな海に、など朦朧としながら、酒が回ってくるといくらか気分も晴れ、まぁ良いか、何でも良いか、明るい絶望、そんな風に何となく元気になり、また再び人ごみに帰るのである。
で、まぁそれはそれで良いけれども、都内に引っ越してからというものなかなか釣りに行けない。
都内の堤防ではのんびりフカセ釣り、なんてできないのだ。
どこに行っても混んでいるし、そのくせ魚はいない。
餌代を払うのが虚しくなる。
魚のいない海に餌を撒くという行為の末、絶望は更に深まり、もう嫌、ほんとに飛び込んじゃうからな、と駄目な気持ちになる。
困ったなぁと思っていたところ、どうやら都内ではルアー釣りが盛んらしいと言う噂を小耳に挟んだ。
ルアー釣り。
けっ、あんなのは茶髪でロン毛の兄ちゃんがちゃらちゃらとやるような子供騙しで、つまりアングラーとかいう横文字な奴らがちゃらちゃらとやるやつで、僕みたいな男気のある釣り師は、骨太な釣り師はだよ、餌で釣るのだ。
って思ってたんだけれども、背に腹は代えられない。
ここはいっちょ、僕もアングラーとやらになるか。
茶髪でロン毛で、ちゃらりちゃらりと疑似餌を引くか。
で、リールを買った。
でもって管理釣り場でルアー釣りをやってみた。
ちくしょう、楽しいぜ。
何だか、僕は駄目になったような気持ちがした。
骨太な釣り師から、茶髪(じゃないけど)のアングラーへ。
というか、僕はもともと骨太な釣り師だっただろうか。